≪NEW≫ ~外国人雇用の現場から~Vol.15 フィリピン 世界有数の人材送出し国から学ぶ
フィリピン 世界有数の人材送出し国から学ぶ
フィリピンに行ってきました

5年ぶりにフィリピンへ行ってきました。成田からマニラまで4時間半のフライトで、あっという間です。マニラでは街の成長が感じられる一方で、交通渋滞のひどさは相変わらずでした。いわく「世界一の渋滞」だそうです。
ガツガツした成長とカオスな雰囲気が混在している様子は、他の東南アジアの都市とよく似ています。ベトナムのハノイもインドネシアのジャカルタも同じような感じです。
今回はフィリピンの人材送出機関と日本語学校を訪問してきました。介護職で働くために頑張って日本語を勉強している人もいましたし、トラックドライバーの育成をしている学校もありました。フィリピンの人は皆さん明るくていいですね。とても元気をもらいました。
フィリピン人労働者は実は多い
日本にフィリピン人労働者は24.5万人いて、ベトナム、中国に次いで3番目に多いです。最近はインドネシア人やネパール人が話題になりがちですが、実はずっと以前から、日本でフィリピン人労働者は安定的に大きな割合を占めています。やはり変化が無いと目立たないのですね。
ほとんどのフィリピン人は英語が流暢です。性格も陽気で明るい人が多く、介護やレストランなどサービス業に向いています。国民の約9割がキリスト教で、イスラム教やヒンドゥー教に比べると、日本の食文化や生活習慣に馴染みやすいと思います。
また、日系人が多いこともあり、広い年代に渡って日本に対する距離感の近さを感じます。ありがたいことです。

出典:厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況表一覧」(令和6年10月末)
フィリピンの人材送出しは複雑です
一方で、フィリピンから人材を送り出す仕組みは、インドネシアやベトナムなどに比べると少し複雑です。
フィリピン政府が、自国民の海外就労を厳しく管理しており、求人の承認プロセスや募集方法など、とても煩雑です。日本の採用企業にとっては、フィリピン人の採用は「手続きが大変」、「採用までに時間がかかる」、「採用費用が高め」といったデメリットを感じるかもしれません。
<参考>出入国在留管理庁:特定技能に関する各国別情報 > フィリピンに関する情報(フローチャート)
しかしなぜ、フィリピン政府はこのように厳しい規制を課しているのでしょうか。
そもそも海外就労に関して、政府の管理が厳しい方がいいのでしょうか。それとも政府の管理が緩い方がいいのでしょうか。
短期で見ると、もちろん規制が少ない方が人材送出し事業は拡大すると思います。実際、比較的に政府の規制が少ないベトナムやインドネシアやミャンマーでは技能実習や特定技能の送出しが爆発的に拡大しました。
しかし、無秩序な人材送出しの拡大は、問題も引き起こします。技能実習生の借金問題や失踪、送出機関のキックバックなど、現在も解消していない多くの問題があります。
それに、2012年ごろから急激に拡大したベトナム人労働者の採用ブームは結局10年も持ちませんでした。
今は絶好調のインドネシアも1,2年後には陰りが出てくるかもしれません。最近ではインドネシア政府も特定技能の送出しの規制を強めてきました。ベトナムと同じ轍を踏まないように、慎重に規制の強弱のバランスを調整している印象を受けます。
日本の採用企業からすると面倒に感じる手続きも、フィリピン政府から見ると自国民を守るためのものであり、それが長期的に安定的な人材の送出しにつながっている、ということなのかもしれません。
このように長期的な視点で見てみると、安定的に人材を送り出すという目的においては、フィリピンの仕組みは、実は人材送出しの理想形なのかもしれないです。
いずれにしても、フィリピンが長期間にわたって世界有数の人材送出し国になっているのは事実ですし、日本でフィリピンの技能実習生の失踪率が、他の国に比べて圧倒的に低いのも事実です。

フィリピンの人材送出しから学ぶこと
特定技能制度が浸透し、日本全国で一気に外国人労働者が増えてきました。自治体も外国人の採用を促進するために様々な施策を実施しています。まさに外国人採用に向けて、日本の企業も自治体もアクセル全開といった様相です。
しかし、こういった局面だからこそ、日本もフィリピンを見習い、長期的な目線に立って、外国人労働者受入のアクセルとブレーキのバランスが求められていると思います。外国人労働者を単なる労働力不足の穴埋め手段にしてはいけません。
楽観的かもしれませんが、これからも安定的に一定規模のフィリピン人が日本に働きに来てくれると思います。なぜなら長年の人的交流で、フィリピンにルーツを持った日系人が日本にたくさん住んでいますし、日本のアニメや漫画をきっかけに日本へ強い関心を持ってくれているフィリピン人の若者がたくさんいるからです。
そして、ここに「外国人に選んでもらえる地域づくり」のヒントがある気がします。金銭的なインセンティブで外国人を惹きつけるのが難しいのであれば、地道な人的交流や文化的な魅力の発信が大切になってくると思います。
久しぶりのフィリピン出張で、世界有数の人材送出し国から学ぶことがたくさんありました。
.

キャリアバンク株式会社
取締役 海外事業部 部長
水田充彦
行政書士/社会保険労務士/日本語教師 有資格者。
外国人の採用・定着支援や自治体の多文化共生支援を専門とする。日本全国で外国人採用関連のセミナーを200回以上実施し、地域の外国人雇用の現状に精通。アジア圏を中心に50回以上の海外渡航歴があり、現地の送出機関や教育機関と豊富なネットワークを持つ。