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≪NEW≫ ~外国人雇用の現場から~Vol.16 外国人ドライバーの受入れが始まりました

外国人ドライバーの受入れが始まりました

自動車運送業で外国人の受入れがいよいよ始まりました。これから、トラック、バス、タクシー業界で、続々と外国人ドライバーが増えていくでしょう。

在留資格の制度上、これまでは外国人がドライバーとして働くことは原則的に出来ず、一部の永住権を持っている外国人などが、稀にドライバーとして就業しているのみでした。

つまり、正面からの外国人ドライバーの受入れは、自動車運送の業界としてもほぼ初めてのことになります。昨年度から運送業を対象にした外国人受入セミナーの講師を何度かしましたが、外国人ドライバーを採用することに、とても慎重になっている運送事業者が多かった印象です。

外国人ドライバーになるためのステップ

外国人が特定技能のドライバーとして働くためには、大雑把にいうと、次の3つのステップがあります。

①日本語試験に合格、②特定技能のドライバーの試験に合格、③日本の免許に切り替える(外免切替)という、ステップです。

引用:国土交通省

①の日本語試験は、トラックが日本語初級レベルのN4、バスとタクシーはもう少し難しいN3が求められています。ただ、バスとタクシー業界から、「N3の合格はハードルが高いのでN4にして欲しい」と要望が出ているようです。はたして日本語初級レベルのN4でドライバーが務まるのでしょうか。
<参考> 第4回有識者会議資料:https://www.moj.go.jp/isa/content/001440968.pdf

②の特定技能のドライバーの試験は、ペーパー試験です。決して難しい試験ではなく合格率は約7割です。こんなに簡単で日本の交通ルールを覚えることが出来るのでしょうか。
<参考> 一般財団法人日本海事協会(自動車運送業分野特定技能1号評価試験実施状況):https://sswt-portal.classnk.or.jp/news/9

③の外免切替ですが、これも色々と課題があり、最近話題です。筆記試験は○×問題を10問中7問正解すればいいという、合格率約9割の試験です。あまりにも簡単すぎるので、今年の10月から厳しくなるようです。

つまり、制度上は、日本の交通ルールを熟知しなくても、日本でドライバーとして働くことが出来ます。ちょっと簡単すぎて怖い気がしますが。

現地で日本式運転を教える取り組み

やはり、日本の運送業者もこの仕組みに不安があるようです。最近のニュースで、日本の自動車教習所が海外現地の自動車教習所と連携をして、日本式の運転講習を現地で実施する、という取り組みが出てきました。とても良いですね。

自動車運送業はちょっとした操作ミスが、大勢の命を奪う大惨事を引き起こす可能性があります。人手不足がひっ迫しているのは分かりますが、この分野はじっくりと日本式の教育をして受入れを進めた方がいいと思います。

東南アジアは、車の免許がお金で不正に買えてしまう国もありますし、交通マナーもお世辞にも良いとは言えないところも多いですし、飲酒運転など交通違反の意識が低いところもあります。

人を育てるには時間もお金もかかりますが、ぜひ「急がば回れ」で行って欲しいと願います。もし大事故があれば、世論の影響もあり、外国人ドライバーの受入制度自体が見直されてしまうことでしょう。

一番、課題となるのは日本語能力

外国人ドライバーの受入で現実的に一番課題となるのは日本語能力です。

日本の交通ルールや運転技術は一定の時間をかければ覚えることは出来ると思いますが、日本語能力を向上させるには、もっと時間もかかるし大変です。

そもそも、特定技能の条件とされる日本語レベルN4ですが、このレベルの外国人と会話をするのはとても難しいです。というか、普通に話をしたら、ほとんど通じません。きっと街中に日本語で書かれた看板や交通情報の漢字もほとんど読めないでしょう。

外国人が日本でドライバーとして働くために、受入企業がどのような日本語の支援体制を作ることが出来るか。自動車運送業で外国人の受入れが進むかどうかは、ここにかかっています。

他分野を見てみても、レストランなどの接客分野で特定技能の外国人が急に増えたのも、店員がお客とあまり話さなくてもいい仕組みを作ったから、外国人の受入れが進んだのです。コロナ禍の影響もあって、タッチパネルで注文をする店が増えましたよね。

介護分野で外国人の受入が進んだのも、外国人への継続的な日本語教育の実施や、日本人職員への「やさしい日本語」の講習など、業界の必死の取り組みがありました。 自動車運送業も、このように日本語がほとんど出来ない外国人が、ドライバーとして活躍できる仕組みづくりがこれから急務となってきます。

業界全体で外国人受入のノウハウを蓄えていく

外国人のドライバーの受入が進んでいくと、いつかは必ず事故が起こしてしまうでしょう。事故に巻き込まれることもあるでしょう。その時にどのように対応するのか。乗客とトラブルになったらどうするのか。N4やN3の日本語能力ではトラブル対応は到底出来ません。

また、宗教への対応も必要です。当面はインドネシアからの受入れが中心に進みそうな気配ですが、インドネシアは9割がイスラム教徒です。業界としてイスラム教の理解はあるのか、ラマダン(断食)期間の長距離移動は体力的に大丈夫なのか。検討すべき課題は山積しています。

人手不足だから海外から労働者を連れてくる、という安易な考えで外国人ドライバーを採用すると、きっと失敗します。海外から人を採用すること自体は今や難しいことではありません。本当に難しいのは、採用した後です。

自動車運送業での外国人の受入れは始まったばかりです。これから外国人ドライバーが日本で活躍できるように、他業界や専門家から外国人の受入ノウハウを学び、自動車運送業界全体の工夫と努力を期待します。

キャリアバンク株式会社
取締役 海外事業部 部長
水田充彦

行政書士/社会保険労務士/日本語教師 有資格者。
外国人の採用・定着支援や自治体の多文化共生支援を専門とする。日本全国で外国人採用関連のセミナーを200回以上実施し、地域の外国人雇用の現状に精通。アジア圏を中心に50回以上の海外渡航歴があり、現地の送出機関や教育機関と豊富なネットワークを持つ。